

実は、ブローイング訓練だけを続けると構音が逆に固定化するリスクが約3割のケースで報告されています。
鼻咽腔閉鎖不全(Velopharyngeal Insufficiency:VPI)とは、発音や嚥下時に軟口蓋と咽頭側・後壁が適切に閉鎖できない状態です。 口蓋裂の術後や脳血管障害後遺症などが主な原因となりますが、先天性の形態異常だけでなく、神経筋疾患によっても生じます。
関連)https://www.kotoba-support-net.org/post/20250420
歯科従事者が関わる場面として代表的なのが、口蓋裂術後の患者です。口唇口蓋裂の手術では鼻腔口腔隔壁の形成手術と鼻咽腔閉鎖機能の形成手術が段階的に行われ、術後も異常構音が習慣として残ることが多いため、言語聴覚士との連携が不可欠です。 歯科医師や歯科衛生士が構音訓練の必要性を最初に気づく立場になることも多く、正確な知識が求められます。
関連)http://yuge-ent-clinic.com/kodomo/aeec/
意外ですね。
口腔内の器質的状態を評価する主体は歯科ですが、VPIのリハビリテーションの主軸は言語療法です。つまり連携なしでは成果が半減します。
| 原因分類 | 主な疾患・状態 | リハビリ適応 |
|---|---|---|
| 先天性形態異常 | 口蓋裂、口蓋の形成不全 | 術後に訓練優先 |
| 神経筋疾患 | 脳卒中後、球麻痺 | 発症後早期から訓練 |
| 医原性 | 口蓋腫瘍切除後 | 補装具+訓練 |
リハビリの中心となる訓練は、大きく「間接訓練(嚥下・発声に関連した機能訓練)」と「直接訓練(構音訓練)」に分けられます。 それぞれの目的と手順を正しく理解することが歯科でのアドバイスや連携に直結します。
関連)https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdf
ブローイング訓練は、ペットボトルに少量の水を入れてストローで吹く方法が代表的です。 この訓練によって軟口蓋拳上筋が強化され、鼻咽腔閉鎖不全の改善が期待できます。また口唇閉鎖力の向上や呼吸機能の改善にも効果的です。 1回あたり5〜10分、1日2〜3セットが一般的な目安とされています。
鼻咽腔閉鎖が基本です。
次に、軟口蓋の自動・他動運動訓練があります。他動的に軟口蓋を挙上しながら「a:」の持続発声を行う方法は、閉鎖感覚そのものを再教育する効果があります。 日本ディサースリア臨床研究会の報告では、この感覚運動訓練を中心としたアプローチで鼻漏出の軽減と発話明瞭度の改善が確認されています。
関連)http://www.dysarthrias.com/old/journal/3-1/021.htm
さらに、吸気流量に着眼した新しい訓練法として、喘息患者向けの経口吸気流量計を応用した手法も研究されています。 科学研究費補助金(KAKENHI)でも採択された手法で、これまでの呼気中心の訓練とは異なる筋活動パターンが期待できます。これは使えそうです。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K19440
参考リンク(訓練法の詳細・日本摂食嚥下リハビリテーション学会による公式まとめ。ブローイング訓練を含む根拠に基づいた訓練一覧が掲載されています)。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「訓練法のまとめ(2014版)」
歯科が直接介入できる手段として、軟口蓋挙上装置(パラタルリフト:Palatal Lift Prosthesis / PLP) の製作があります。 これは軟口蓋を物理的に挙上する口腔内装置で、神経筋疾患による鼻咽腔閉鎖不全や術後の過渡期に特に有効です。装置が鼻咽腔をある程度代償することで、同時期に行う構音訓練の効果が引き出しやすくなります。
関連)https://shinbashishika.com/blog/oral-hypofunction-rehab/
ただし注意点があります。口腔装置は保険が適用されない場合があります。保険で製作できる装置には制限が多く、症状に応じた適切な形状での製作が難しいこともあるためです。 患者への事前説明として、自費診療になる可能性を明示することが歯科側の重要な役割です。
摂食機能療法が同時に行われている場合は健康保険が適用されます。 対象者の状態と治療体制を確認してから製作に進むことが原則です。これが条件です。
関連)http://www.hoku-iryo-u.com/pdf/11050902.pdf
パラタルリフトの効果は継続的な使用と並行した訓練があってこそ最大化されます。装置を装着しているだけでは筋機能の改善は見込めません。つまり補装具は訓練の補助です。
参考リンク(軟口蓋挙上装置の保険適用と適応に関する解説。北九州市医師会PDFにて嚥下補助装置の適応と保険導入の背景が詳述されています)。
北九州市医師会「嚥下補助装置の適応 健康保険導入による普及を期待して」
リハビリと手術は対立する選択肢ではなく、病態の重症度と時期によって組み合わせて使うものです。 基本的な治療方針の決定は、鼻咽腔ファイバー検査などの所見を専門科合同カンファランスで検討したうえで行われます。
関連)https://www.fujita-hu.ac.jp/~jibika/medical/cleft-palate.html
手術が必要なケースの代表が、咽頭弁形成術(Pharyngeal Flap)です。重度鼻咽腔閉鎖不全では、訓練のみでは改善が見込めず6ヵ月を経過しても効果が乏しい場合に手術が検討されます。 歯科従事者がこのタイムラインを把握しておくことで、患者への適切な案内ができます。
関連)https://www.kanagawa-jibika.com/menu_link/enge_qa_7.html
歯科従事者として関わる場合、言語聴覚士や形成外科・耳鼻咽喉科医との連携を早期から構築することが患者にとっての最大のメリットになります。連携が原則です。
参考リンク(口蓋裂言語と手術適応の関係についての解説。鼻咽腔閉鎖不全の程度と言語症状・再手術との関係がまとめられています)。
多くの歯科従事者が「手術が終わればリハビリは言語聴覚士の仕事」と考えがちです。しかし実際には、発音を覚えている幼い時期に鼻咽腔閉鎖機能不全の状態が続くと、それを補うために誤った独特の構音パターンを習慣として身につけてしまうことがあります。
関連)https://www.kotoba-support-net.org/post/20250420
この「異常構音の習慣化」こそが、後のリハビリを長期化させる最大の要因です。一度習慣化した構音は、器質的な問題が解消されても残存することが多く、再教育に時間とリソースがかかります。痛いですね。
歯科定期健診の場では乳幼児から学童期の子どもと接触する機会が豊富にあります。口腔内の形態観察の中で、軟口蓋や硬口蓋の状態に気になる点があれば、保護者への早期相談を促すことが、後の長期訓練を防ぐ予防的介入になります。
具体的には以下の所見に注目してください。
こうした所見が見られる場合、耳鼻咽喉科・形成外科・言語聴覚士のいる専門機関への紹介を早めに行うことが重要です。 言葉の発達において、構音器官の形態と機能が整えられ、年齢に応じた構音の仕方を覚えることがすべての起点になります。
関連)https://w3.hal.kagoshima-u.ac.jp/dental/Omfs2/clp/09.html
早期介入が条件です。
参考リンク(口唇口蓋裂のことばの発達と言語治療について、鹿児島大学専門外来が詳しく解説しています)。
鹿児島大学口唇口蓋裂専門外来「ことばの発達と言語治療」