

ClassⅡと判定されても、約14%の症例が組織診でdysplasiaと診断されています。
関連)https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/5809/1/14_35.pdf
口腔細胞診において長年使われてきたパパニコロウ分類は、Class I〜Vの5段階で細胞の異常度を示します。 Class Iは異常細胞なし、Class IIは良性異型細胞、Class IIIは悪性の疑い、Class IVは悪性の特徴あり、Class Vは悪性細胞確認という構造です。
関連)https://www.koukuugan.jp/gun7_inspection.html
この分類は直感的でわかりやすいですが、問題があります。 婦人科細胞診の思想を基盤としており、口腔粘膜の生物学的特性(表層分化型扁平上皮癌の多さ、角化の多様性など)を十分に反映していないのです。 実際に松本歯科大学病院の10年間データでは、ClassⅢが全体の14%を占める一方、組織診との整合性に課題が指摘されています。
関連)https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/5809/1/14_35.pdf
特に問題になるのが「ClassⅡの安心感」です。 ClassⅡは「悪性ではない」という解釈が一般的ですが、組織診と比較した研究では偽陰性(見逃し)が一定割合で存在します。 つまり、ClassⅡ=安全、という思い込みは歯科臨床では危険です。
関連)https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/5809/1/14_35.pdf
また、パパニコロウ分類には「次に何をすべきか」という臨床行動の指針が含まれていません。 診断はできても、その後の対応が現場に委ねられてしまうという構造的な弱点があります。 これが後述する新報告様式への移行理由のひとつです。
| クラス | 細胞判定 | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| Class I | 異常細胞なし | 正常・反応性変化 |
| Class II | 良性異型細胞あり | 悪性ではないが要注意 |
| Class III | 悪性の可能性 | 疑陽性・判定不能 |
| Class IV | 悪性の特徴あり | 強く悪性を疑う |
| Class V | 悪性細胞確認 | 悪性と判断 |
2015年に日本臨床細胞学会が発行した細胞診ガイドライン(消化器5巻)において、口腔細胞診の新報告様式が導入されました。 これはベセスダシステムの理念を口腔領域に応用したもので、NILM・OLSIL・OHSIL・SCCの4カテゴリで構成されます。
それが基本です。 ただし注意点があります。 婦人科で使われるLSIL・HSILと同じ名称に見えますが、口腔細胞診ではOLSIL(Oral Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion)・OHSIL(Oral High-grade Squamous Intraepithelial Lesion)と区別し、同一視は厳禁です。
各カテゴリが意味するところは明確です。
OLSILとOHSILの区別が肝心です。 OLSILは「経過観察」、OHSILは「高次医療機関での処置」という異なる行動指針につながります。 この区別ができないと、患者の紹介タイミングを誤ります。
新報告様式の大きな特徴は「次の1手」を報告書に記載することです。 単に診断名を書くだけでなく、次のステップ(生検推奨・経過観察・追加染色など)をコメントとして明示する姿勢が求められます。 これは歯科クリニックと病院の橋渡しとして機能します。
参考:口腔細胞診の新報告様式と各カテゴリの対応を詳しく解説した資料(東京歯科大学市川総合病院・田中陽一先生監修)
口腔細胞診の診断ポイント(ロシュ・ダイアグノスティクス)
2017年のWHO頭頸部腫瘍分類改訂により、口腔領域の上皮内腫瘍性病変の概念が大きく変わりました。 口腔では「Oral Epithelial Dysplasia(OED)」として独立した分類となり、頭頸部の他領域と区別されるようになったのです。 これは重要な変化です。
具体的には、従来のMild / Moderate / Severe dysplasiaの3分類法と2分類法(Low-grade / High-grade)が並立する状況が生まれました。
口腔癌取扱い規約第2版(2019年)では以下のように整理されています。
注意が必要なのが3分類法における「Moderate dysplasia」の位置づけです。 Moderate dysplasiaがLow-gradeに入るかHigh-gradeに入るかは、施設・時代・診断医によって異なります。 これは単純に思えて、実は非常に難しい線引きです。
歯科従事者が覚えておくべき実務的なポイントを整理します。
関連)https://www.oralcancer.jp/images/nagano_symp2018-02.pdf
つまり分類は絶対ではなく、判定が条件です。 臨床所見との総合判断が不可欠です。
参考:日本臨床細胞学会 口腔細胞診ガイドライン(公式PDF)
口腔細胞診ガイドライン(日本臨床細胞学会)
細胞診の分類精度は、採取方法に大きく左右されます。 従来の擦過細胞診(コンベンショナル法)は、ガラス板に直接塗布して固定する方式です。 標本の質にムラが出やすく、炎症細胞の混在で判定が難しくなる欠点があります。
それに対して近年普及しているのがLBC法(Liquid-Based Cytology:液状化検体細胞診)です。 専用の液体に細胞を浸して保存・処理することで、均一で清明な標本が作製できます。 標本品質が安定します。
関連)https://webview.isho.jp/book/detail/abs/10.11477/9784260653480
LBC法がもたらす具体的なメリットを挙げます。
とはいえ、LBC法にも注意点があります。 OG好性(表層分化型)細胞の分布がコンベンショナル法と異なるため、判定に慣れが必要です。 また費用面では従来法より高コストのため、導入が進む施設とそうでない施設が混在しているのが現状です。
歯科クリニックでLBC法を外注する場合、依頼先の検査会社が新報告様式に対応しているかを確認することが実務上の重要ポイントです。 「パパニコロウ分類で返答される」ケースがまだあるため、依頼書と報告書の様式を事前に確認しておく必要があります。 依頼先の確認が条件です。
関連)https://www.tcpl.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/kensaannai2023.pdf
ここは、検索上位記事ではほとんど取り上げられない独自の視点です。
口腔細胞診は通常「肉眼的に異常が見られる病変部」から採取します。 しかし実は、見た目が正常に見える粘膜からも早期がんや高異型度病変が検出されることがあります。 これは意外ですね。
2017年WHO分類以降、「境界が不明瞭な初期OED(口腔上皮性異形成)」は肉眼所見だけでは診断できない病変として認識が高まっています。 特に次のような部位・状況では、見た目が正常でも細胞診の積極的な施行が推奨されます。
実際に、細胞診ClassⅠ・NILMの部位に隣接した病変から扁平上皮癌が検出された症例報告があります。 病変中心だけでなく、境界部・周辺正常粘膜の採取も記録しておくことで、後の生検部位選定に役立ちます。
関連)https://www.oralcancer.jp/images/nagano_symp2018-02.pdf
採取部位の記録が大切です。 細胞診報告書に「採取部位の肉眼所見」を記載する習慣をつけることで、次の診察担当者や専門病院との連携がスムーズになります。
具体的には以下のような採取記録を記載する手順を覚えておくと便利です。
1. 病変の大きさ・色調・表面性状(均一型/不均一型)を記録
2. 採取箇所を口腔内写真とともに残す(スマホ撮影でも可)
3. 疼痛・出血の有無を明記
4. 次回受診予定と判定結果の対応フローを患者に説明
口腔癌の5年生存率は、早期発見(StageⅠ)では約90%以上ですが、進行例(StageⅣ)では30〜50%程度まで落ちます。 これは東京ドーム1個分の差ではなく、患者の人生そのものの差です。 細胞診の積極的活用がその差を埋める鍵になります。
関連)https://www.gifukenshi.or.jp/column/detail/34
参考:岐阜県歯科医師会による口腔擦過細胞診の一般向け解説(歯科クリニックでの説明補助に活用可)
口腔内擦過細胞診とは(岐阜県歯科医師会)
参考:口腔がん検査の種類と細胞診・生検の使い分けについての臨床的解説
早期口腔がんが疑われる口腔粘膜病変の検査:細胞診と生検(大分大学口腔外科)