

実は、保護メガネを正しく装着しても、レーザーの種類によっては眼障害リスクがゼロにならない。
歯科のレーザー治療中に「目が痛い」と感じた経験はないでしょうか。原因は単純ではありません。
歯科で使われる主なレーザーは、Er:YAGレーザー(波長2940nm)、Nd:YAGレーザー(波長1064nm)、ダイオードレーザー(波長810〜980nm)、CO₂レーザー(波長10600nm)の4種類です。それぞれ波長が異なるため、眼への影響経路もまったく異なります。たとえばNd:YAGレーザーは、角膜・水晶体を透過して網膜に到達しやすく、網膜熱傷のリスクが特に高いとされています。これは危険な特性です。
一方、CO₂レーザーは波長が長く角膜で吸収されるため、網膜への影響は少ないものの、角膜障害を起こす可能性があります。つまり「どのレーザーを使うか」によって、守るべき眼の部位が変わります。
「痛みがないからレーザーは安全」という思い込みは、実は大きなリスクを隠しています。意外ですね。
網膜そのものには痛覚神経が存在しません。そのため、網膜がレーザーで障害を受けても当初は痛みを感じないケースがあるのです 。眼科領域の研究でも「網膜の凝固治療時の痛みは、網膜自体の痛みではなく、発生した熱が眼球外側へ伝わって周辺神経を刺激することで生じる」と説明されています 。つまり、痛みが出ていない=安全、という判断は誤りです。
関連)https://www.kawamotoganka.com/tayori/1167/
歯科治療中に目が痛くなる原因としては、以下の3パターンが考えられます。
特に歯科従事者が見落としやすいのが反射光・散乱光です。一部のミラー器具で反射したNd:YAGレーザーでも、角膜や網膜に障害を生じさせるに十分なエネルギーが残ることがあります。
保護メガネなら何でも良い、という認識は命取りになります。
歯科用レーザーの安全指針(J-Stage)によれば、「世界の医療で使われているレーザー装置には必ず眼の保護をする専用のメガネがある」とされており、装着なしにレーザー治療は行えないという原則があります 。
関連)https://www.heart-dental-clinic.jp/laser.html
保護メガネを選ぶときに確認すべき項目は以下の通りです。
| 項目 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 対応波長 | 使用レーザーの波長(nm)に対応しているか | 波長が合っていないと透過してしまう |
| OD値(光学密度) | 数値が高いほど遮光性が高い | 歯科用途ではOD4以上が推奨 |
| 視野・装着感 | 長時間使用でもズレない構造か | 隙間からの漏れ光に注意 |
| 規格認証 | EN207(欧州規格)などの認証マーク | 認証なしの安価品は信頼性が低い |
たとえばEr:YAGレーザー(2940nm)用の保護メガネと、Nd:YAGレーザー(1064nm)用の保護メガネは別物です。複数のレーザーを使用するクリニックでは、それぞれに対応した保護メガネを揃えるか、対応波長域が広いブロードバンドタイプを選ぶことが重要です。保護メガネの選定は一度確認すれば大丈夫です。
なお、歯科治療においてレーザーを使用しない場合は、強い光(フォトポリメライザーなど)でも眼への影響を考慮し、患者への説明と同意が求められる場合があります 。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_3778
レーザー照射後に目の違和感が出た場合、原因を特定せずに放置するのは危険です。
眼科のレーザー治療後に生じる症状の研究によると、「治療範囲の大きさによっては一時的に目の痛みを感じることがある」とされています 。歯科レーザーの場合も同様に、散乱光を受けた際に以下のような症状が数時間〜数日以内に現れることがあります。
関連)https://infinity-med.com/qa/20210319_25/
特に「視野の一部が暗い」「光の点が動いて見える」といった症状が出た場合は、網膜障害の可能性があり、速やかに眼科を受診することが必要です。これは放置厳禁です。
歯科クリニックとして実施できる対策として、患者への術前説明に「当日中に眼の異常を感じた場合は眼科受診を推奨する」という一文を問診票や同意書に加えることが有用です。法的リスクの観点からも、こうした記録を残しておくことで医療トラブルを回避しやすくなります。
眼障害の「手前」にある問題として、慢性的な眼疲労への意識が歯科従事者には欠けています。
歯科の診療現場では、レーザー照射灯・歯科用ライト・PC画面を長時間近距離で見続けます。これに加えてレーザー照射時の光刺激が繰り返されると、目の疲労(眼精疲労)が蓄積し、集中力の低下・手の微細振動の増加・診断の誤りリスクが高まることが指摘されています。
眼精疲労を防ぐための現場対策として、以下を取り入れているクリニックもあります。
こうした対策は健康管理であると同時に、患者へのサービス品質を維持するための投資でもあります。この視点で取り組めば、職場環境の改善につながります。
参考情報:歯科用レーザー安全使用指針に関する専門論文(J-STAGE)
参考情報:歯科治療用青色光・レーザーによる眼障害の可能性と防止策について
日本医事新報社:歯科治療用青色光・レーザーによる眼障害の可能性と防止策
参考情報:眼科領域でのレーザー治療の痛みメカニズムについての解説
川本眼科だより:痛くないレーザー(網膜の痛覚メカニズム)